2021年8月20日金曜日

【防災のおはなし】【獣医師のおはなし】災害に備える日頃からの健康維持

 いざというときに備えて飼い主ができるペットの健康管理はなんでしょう?

当ネットワーク理事、世田谷区獣医師会所属 獣医師 長谷川 承(しのぐ)より

災害に備える日頃からの健康維持について、お話しいたします。







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災害に備える日頃からの健康維持


災害時の同行避難では、ペットを取り巻く環境は大きく変わります。 ほとんどの避難所では持参したケージに入れられ、飼い主とは別の指定された場所で管理されることになります。そして、指定場所もほとんどが屋外を想定しています。 この様な環境下での避難生活に対して、獣医療から想定しなければならないことは多岐に及びますが、大きく3つに分けられると思います。

 *画像提供 菊池ひとみ


つまり、 1.個としての獣医療:個々のペットの健康維持。 2.獣医衛生:ペットが集まることによる衛生問題。 3.公衆衛生:ペットと人との間の衛生問題。 となります。
今回は1.「個としての獣医療:個々のペットの健康維持」について解説いたします。



1. 個として獣医療 
「災害に備えて薬を少し多めに貰っておいて良いでしょうか?」 ここ最近飼い主様からこの様な言葉をよく伺うようになり、災害に備える意識が高まっていることを感じます。では、災害に備えて日頃からペットに対して行っておくべきことを考えてみましょう。
① 定期的な予防接種と予防薬の準備 予防接種の対象となる感染症はほとんどが空気感染です。ですからペットが集まる環境下では感染症が発生しやすくなり、ペットの避難場所はまさに「密」な環境となります。 この観点からも、定期的な予防接種を受けておくことはとても大切です。
「うちの子はもう歳だからワクチンは必要ないですか」という言葉をよく伺います。
この問いに対しては
「人でも感染症にかかりやすいのは幼児と老人ですよね。」 ですから高齢になるほど予防接種は必要となります。
とはいっても、疾患を抱えていると心配です。こんな子には抗体価の検査をして、予防接種の必要性を判定することができます。かかりつけの先生にご相談になると良いでしょう。

そのほかには、同行避難の場所は屋外が多いため、フィラリアやノミ・ダニなどの寄生虫に遭遇する可能性は高くなります。このため(特に4〜12月は)予防薬を少なくとも1回分(1ヶ月分)は余分に用意しておくと良いでしょう。




② 食事の備え 災害に備えて人では最低3日分の水と食料を用意するようにいわれています。これは3日目までには水と食料が被災地に届けられる想定になっているからです。 これに対してペットの食料はもっと日数が必要であることは容易に想像できます。 ですから日頃からペットの食事は人の物よりも多い日数を備えておくことが必要です。 特に、処方食が必須となる疾患(腎不全、消化器疾患など)では、より長期間備えなければなりません。 最近では処方食のバラエティーがとても多くなり、ほとんどの処方食がインターネットで購入することが出来るようになっています。このため動物病院でも全ての処方食を充分な量を取り揃えていないため、災害時に提供するのは困難なことが予想されます。

③ 疾患に対しての備え 腎不全や心不全、内分泌疾患などの慢性疾患では毎日の投薬が必要な場合が多く、災害時でも中断することはできません。 災害時に動物病院は被災していなければ救護所となりますので、ストックしている薬を処方することは可能ですが、充分な日数分にはならないと予想されます。また、動物病院が処方する7〜8割の薬は人薬ですので、災害時には人優先となり動物への供給は遅延すると思われます。 このことから最低でも1ヶ月程度の薬を余分に持っておくことをお勧めします。 しかし、中には使用期間が1ヶ月ない薬もありますので、予めかかりつけの先生に確かめておく必要があります。 それでも長期にわたる避難生活では薬が無くなってしまうと処方を受ける必要があります。このため、薬の名前は必ずメモっておくなど、分かるようにしておきましょう。





④ 常備薬の備え
「うちの子はホテルに預けると、帰ってきてお腹を壊すのよね。」これも良く聞かれることです。 避難生活はペットにとっても大変ストレスフルな状況となりますので、お腹の弱い子など体調を崩しやすい子は常備薬もしっかり持参できるようにしておいて下さい。

⑤ 避難時の体調変化に備えて 避難生活はストレスフルな環境です。最近のペットはストレスに対しての許容が低下しているように思います。過度のストレスに対しては、主に食欲低下、嘔吐・下痢などの消化器症状が現れます。これが進行すると発熱や沈うつなどもっと重篤な症状になります。もともと疾患を持っていたり、夏や冬などの過酷な環境下では容易に重篤な状態になりやすくなります。 このため、避難生活中にはできるだけしっかりと観察をする必要があります。

⑥ 体調を把握するために 体調の変化を判断するためには日頃から体調を把握しておく必要があります。
・体温:熱発では耳が熱くなります。ペット用の体温計を用意しましょう。 平熱:犬37.0〜38.8℃、猫38.0〜39.0℃ ・呼吸数:胸の膨らみや鼻に手をかざして測定します。 正常呼吸数:犬10〜30回/分、猫20〜25回/分 ・心拍数・脈拍数:肘のあたりの胸を左から触ると鼓動を感じられます。 正常心拍数:犬70〜120回/分、猫100〜120回/分 ・貧血・末梢循環:眼結膜(白目)の血管が見えるか?歯茎がピンクか? これらのことをいつも感じられるようにしておくようにしておきましょう。 以上が個としての獣医療となります。「うちのペット」は言うまでもなく飼い主の責任で管理・監視しなければなりませんので、日頃から健康の備えをしておく必要があります。







長谷川承 (しのぐ)  (理事)

アルマ動物病院院長 

獣医師。

ペット防災せたがやネットワーク理事