2022年7月3日日曜日

【獣医師のお話】世田谷獣医師会より・寄稿シリーズ 2 狂犬病予防注射は何故法律で義務づけられているの?

 ★飼い主の皆様へ気になる話題をわかりやすくシリーズでお届けいたします。
 第2回は「狂犬病予防注射は何故法律で義務づけられているの?です。

                 ご寄稿  獣医師 医学博士 本間義春 先生

 

世田谷区の狂犬病定期予防注射の実施期間が終了いたしましたが、接種し忘れた方はいらっしゃいませんか? 
そのままにしておくと、保健所から督促状がお手元に届きます。

 そもそも、何故他のワクチンと異なり、狂犬病予防注射の犬への接種が、法律で義務付けられているのでしょうか? 狂犬病という病気を良く知っておくことと、今の世界情勢から考えると日本への侵入リスクが高まっていることをよく考えておきましょう。



日本は、先輩獣医師の努力により、数十年にわたり一部例外(ヒトの場合海外渡航先で感染し帰国後発症した例)を除いて、狂犬病の発生が認められていない数少ない国の一つです。

それ故に、狂犬病を発病した犬などを実際に診察した先生は、高齢化のため、ほとんどいないのが現状です。狂犬病と確定診断を下すためには、疑いのある動物を殺処分して、脳の海馬という部分を調べて、そこにウイルスが存在しているかを確かめなければならないという事も、厄介な点です。

狂犬病ウイルスは哺乳類すべてに感染する可能性がある珍しいウイルスです。
たいていのウイルスは宿主特異性と言って同じ動物の間では感染しますが、他の動物に感染することはありません。動物により感受性の差はあるものの、ヒトや犬では、唾液など(咬まれた傷からウイルスが侵入します)を介して感染し、ひとたび発病すれば、ほぼ100%死亡してしまう恐ろしい病気です。

戦後しばらくは感染した野良犬が多かったことと、感染した犬は文字のごとく攻撃性が極端に強くなり人に向かって噛みついたため被害が拡大したことより、野犬の捕獲と狂犬病予防注射の義務化がなされたと聞いています。

猫は現時点で発生例がないので完全室内飼いであれば、ワクチン接種の必要はないと言われていますが、日本で最後に狂犬病を発病したのは猫だそうです。猫は病気になると暗くて狭いところに隠れてしまいますが、狂犬病を発病した猫は、攻撃的になると言われていますし、猫を飼う比率も増加していて、自由に外へ出入りしている猫も多いと思われます。

海外との貿易がさかんになり、貨物などに紛れ込んで、ウイルスに感染した動物が侵入する危険性も、毎年増加しています。侵入したウイルス保有動物が野生動物と接触、咬傷などから感染し、さらに、その動物が散歩中のワクチン未接種の犬や外で遊んでいる猫と遭遇して喧嘩などをすれば、家庭内に狂犬病を持ち込むことになります。更に、気が付かないでいれば、感染は急拡大します。勿論、近くにいる人も危険です。

世界情勢の変化とともに、海外から感染動物が侵入してくるリスクが増大しているので、将来的にはネコのワクチン接種もMC装着同様、義務化されるかもしれません。




上記理由から、狂犬病予防注射は法律で犬への全頭接種が義務付けられているのです。
狂犬病予防法という法律は、人の命を守るための法律でもあることを忘れてはいけません。新型コロナワクチン接種同様、集団免疫率(残念ながら現状では全国平均の接種率でも50%に達するかどうか程度です)をあげ病気の拡散を防ぐことが重要です。